ある市販のFX教材(移動平均線と「AI」を組み合わせる、という触れ込みの一冊)を手に入れたので、書いてある手法を丸ごとバックテストにかけてみた。結論から言うと教材のコア手法は不採用になったのだが、その過程で拾った部品が一つだけ生き残り、最終的に PT101_v5 という新戦略の誕生につながった。一日の検証の記録を残す。

この記事のポイント

  • 教材のコア手法(移動平均線クロス+ブレイク)は、スプレッド込み forward-only BTで全パターン PF<1。エッジ不在で不採用
  • 教材の売りである「AIで勝ちやすい通貨を選ぶ」層も検証 → 損失は95%圧縮するが黒字化はしない。AIは"止血剤"だった
  • 唯一生き残った部品 = 13EMA-Low(安値をソースにしたEMAの帯)。これを勝っている自前戦略の"押し目検出"に流用すると効いた
  • 決済比較でトレール・段階TPが in-sample では勝つが out-sample で脱落する罠を回避し、シンプルな RR2固定 を採用
  • Titン/Exness 両brokerで再BT → Exness out PF1.58 / 月別負け月率21%。XAU専用 PT101_v5 としてExnessデモへ投入、フォワード観測開始

1. 教材コア手法 — 全部負けた

教材の中心は「移動平均線のゴールデン/デッドクロス後、短期の高安帯をブレイクしたらエントリー」という、よくある順張りロジック。これを M5・約1年・6通貨・スプレッド込み・未来参照ゼロ(forward-only)でBTした。決済は教材どおりの固定RR、直近高安、さらにトレール+分割まで全部試した。

決済勝率PF判定
固定 RR1(10/10)43.5%0.66負け
直近高安 RR146.7%0.79負け
トレール+分割46.6%0.78負け

どの決済でも PF<1。理由は明快で、どのリスクリワードに振っても、実勝率が損益分岐勝率を一定幅で下回る ── つまりエントリーにエッジ(優位性)が無い。教材自身が「リスクリワード1:1なら勝率63%が必要」と書いているのに、実測勝率は43〜49%。教材の基準に照らしても失格だった。

2. 「AIで通貨を選ぶ」層は"止血剤"だった

この教材の売りは、トレード前に生成AIへ「いま最も勝ちやすい通貨ペアは?」と聞いて銘柄を絞る、という運用。これも定量シミュレートした。「直近で好調な通貨だけ採る」という動的選定をBTに組み込むと──

選定PF総pips
全通貨ベタ(AI層なし)0.66-15,767
AI: 直近top1の通貨だけ0.84-867

損失は −15,767 → −867 pips(95%圧縮)。確かに負け通貨を避ける効果はある。だが勝率は48%止まりで、黒字には届かない。エントリーにエッジが無い以上、AIは「大敗を避ける止血」はできても「勝ちを作る」ことはできない。

この日いちばんの教訓。AIは健全なエッジを持つ手法の"増幅器"であって、エッジの無い手法を黒字化する魔法ではない。 損失を1/18に縮めても、ゼロの壁は越えられなかった。

3. 生き残った部品 ── 13EMA-Low(安値の帯)

教材のロジック全体は捨てたが、使われていた 13EMA-Low / 13EMA-High という部品が目に留まった。通常のEMAは終値で計算するが、これは各足の安値・高値をソースにしたEMAで、価格を上下から挟む「帯」になる。安値ベースなので、ヒゲで一時的に深く押した"本物の押し目"を拾える。

自前の勝ち戦略(XAU順張り)の押し目検出を、従来の「移動平均線への接触(固定%)」から「安値が13EMA-Lowにタッチ」に差し替えてBTしたところ、勝率が一貫して上がった。ボラに応じて帯幅が伸縮するため、固定%より相場適応的だったのが効いている。

4. PT101_v5 設計 ── out-of-sampleが罠を見破った

そこで XAU専用・13EMA-Low押し目・H1方向フィルタ・反発確認、という構成を PT101_v5 として設計。最後に決済を詰めるべく、固定RR2 / 部分利確 / トレール / 段階TP を同じ土俵で比較した。

決済in-sample PFout-sample PF
fix(RR2固定)1.261.45
トレール+分割1.291.16
段階TP1.221.28

ここが肝。トレールは in-sample では fix を上回る(1.29>1.26)が、out-sample で 1.16 に脱落する。段階TPも総pipsは多いが薄利多売でPFは届かない。in-sampleの好成績に釣られていたら、複雑な決済を選んで本番で失敗していた。out-of-sample検証が、シンプルな RR2固定 こそ最良だと教えてくれた。

5. broker横断で再BT ── Exnessの方が良かった

BTは長らくA社のヒストリカル価格で行ってきたが、実際に動かすのはB社(Exness)デモ口座。そこで価格データを broker分離してDBに取り込み直し、同じPT101_v5をExnessの実価格・スプレッドで再BTした。

指標A社データExnessデータ
out-sample PF1.451.58
月別 全期間PF1.361.43
負け月率36%21%

brokerをまたいで優位性が再現し、しかもExnessの方が数字が良い。A社で気になっていた「直近の連敗・利益の集中」も、Exnessでは緩和されていた。これで PT101_v5 を Exnessで動かす判断がデータで裏付けられた。

6. 投入、そしてここからが本番

PT101_v5 を Exnessデモ口座に登録し、稼働を開始した。初回エントリーも設計どおり XAU で成立している。

ただし──ここまではすべて過去のヒストリカルBTだ。out-sample期間も「過去」にすぎない。BTがどれだけ良くても、それは過去の再現でしかない。真の検証は、今日からのフォワード(実稼働)でBTの数字に追従するか。前のめりにならず、ここから時間をかけて見ていく。観測の基準値は Exness out PF1.58 / 月別1.43。

教材は「不採用」だったが、無駄ではなかった。13EMA-Lowという部品と、「AIは増幅器であって魔法ではない」という確信と、「in-sampleの好成績を信じず out-sampleで確かめる」という規律。一冊の本から、それだけ持ち帰れれば十分だ。

7. 後日談 ── 「全手法を組み合わせれば最強PTを作れる?」を試した

記事公開後、「これまでの入口×いろいろな出口を組み合わせて新しいPTを量産できないか」という発想が浮かんだ。結論を先に言うと──"総当たりで良い組み合わせを探す"のは、この日いちばん危険な罠だった。入口10種 × 出口8種を総当たりすれば、in-sampleでPFが高い組み合わせは"必ず"出る。だがその大半は偶然(多重比較)で、out-sampleで崩れる。実際この日、トレールが in-sample で勝ったのに out-sample で脱落するのを目撃したばかりだった。

そこで総当たりはやめ、論理的に意味のある組み合わせを1つだけ仮説として立てた:「PT101_v5の入口(13EMA-Low押し目)× Fib38.2%トレール出口」。ここで言うトレールは、第4章でout-sampleに脱落した「建値移動型」トレールとは別物で、「価格のピークから38.2%戻したら決済する(=利益の61.8%を確保する)」戻り率ベースのトレールだ。利を"切る"RR2固定に対し、同じ入口で利を"伸ばす"出口に替えたらどうなるか?

決済out-sample PF勝率
PT101_v5(RR2固定)1.45〜1.5840%
Fib38.2%トレール2.4〜2.990%

同じ"トレール"でも種類が違えば結果も逆になる点に注意(第4章の建値移動型は負け、こちらの戻り率型は別挙動)。月別では14ヶ月すべてプラス・負け月ゼロ・PF2.21。一見すると圧勝だ。だが──

「健全な戦略で負け月ゼロ・勝率90%」は、まず出ない数字。うますぎる時はlook-aheadを疑う、というこの日の教訓が最大級に発動した。調べると、M5足の中で「高値でピーク更新→同じ足の安値で都合よく決済」という疑似look-aheadが混入していた。悲観的な順序に直すと数字は下がったが、それでもPF2.4超。今度は薄利多売(トレード数が15倍・1件あたりの利益が小さい)で、実戦の約定頻度やスリッページがBTでは捉えきれない、という別の疑いが残った。

だから「採用」ではなく「実戦で白黒つける」

BTだけでは「本物か、M5足の楽観か」を判別できない。そこで本採用は見送り、固定利確版(本線)と Fib38.2トレール版を、同じ口座で並走させることにした。同じ入口・違う出口の2戦略を実戦で走らせれば、どちらが本当にXAUで勝つかが生のデータで分かる。

両者ともデモ口座で稼働を開始した。固定利確版は初トレードがプラスで滑り出している。トレール版のBTが示した派手な数字が本物なのか、それとも過去データの綾だったのか──ここから先は、相場が審判を下す。

この日の総括。戦略は「組み合わせて探す」ものではなく、「仮説を立てて、out-sampleとフォワードで潰す」もの。数字が派手なほど、疑いを強くする。一日で「圧勝」を撤回し、「採用」をout-sampleで否定し、look-aheadを見抜き、最後は「うますぎるから実戦で確かめる」に着地した。地味だが、これが生き残るための作法だと思う。